大阪大学

花咲研究室

研究内容

Research

HOME研究内容

身の回りにはスマートフォンやパソコンなど多くの電子機器があふれています。現代のエレクトニクスは、電子が持つ量子性や自由度を用いて機能性を持たせていますが、その多くは固体物質の研究に端を発しています。もし有益な物性を示す物質を見つける事ができれば、世の中に役に立つかもしれません。当研究室では、電子系の電荷・スピン・軌道等の多自由度を操り、新しい量子現象を実験的に探索しています。特に、電子相関効果、トポロジー効果(位相幾何学効果)、フラストレーション効果などに着目して研究を進めています。研究テーマは基礎分野から応用分野まで多岐に渡っています。

強相関量子輸送現象

巨大磁気抵抗効果物質

電子間のクーロン相互作用が強い系は強相関電子系と呼ばれ、電子系の多自由度が絡んだ興味深い物性を示す事があります。例えば、磁場によってスピンが揃えられると、電気伝導性が大きく変化する巨大磁気抵抗効果があります(2007年ノーベル物理学賞)。パソコンのハードディスクにも利用されています。このような磁気抵抗効果は変化が大きいほど応用上有用ですが、もし分子性物質でも実現できれば有意義です。当研究室ではフタロシアニンと呼ばれる分子を用いて、分子性物質で初めて巨大磁気抵抗効果(磁場による電気抵抗の減少、図1)を発見しました。この現象は、1つの分子に電気を流す性質と磁石の源(磁性)の両方の性質を作りこむ事で、 両者の相互作用を増幅できた事に由来しています。(参考:日本物理学会誌 72巻 415頁(2017年).

2元系半金属において、磁場によって電気抵抗の値が200万倍にもなる巨大磁気抵抗効果(図2)を見出しました。この磁気抵抗効果は電子的キャリアーとホール的キャリアーが共存する事に由来しますが、観測された磁気抵抗比は、2元系半金属において過去最高の値を記録しました。また、希土類化合物においても磁気ポーラロン効果に由来する4桁にも及ぶ巨大な負の磁気抵抗効果(図3)を見出しています。(参考:Physical Review Materials 2巻024203頁(2018年). Physical Review Materials 6巻054604頁(2022年).

図1 フタロシアニン分子性伝導体 (a)分子構造
図1 フタロシアニン分子性伝導体 (b)巨大磁気抵抗効果

図1 フタロシアニン分子性伝導体 (a)分子構造 (b)巨大磁気抵抗効果

図2 2元系半金属NbAs2の巨大磁気抵抗効果

図2 2元系半金属NbAs2の巨大磁気抵抗効果。縦軸は、電気抵抗をゼロ磁場の値で割ったものである。図にはこれまで報告されている他の物質の磁気抵抗比の例を併記している。

図3 希土類化合物CeTe1.83Sb0.17の巨大磁気抵抗効果

図3 希土類化合物CeTe1.83Sb0.17の巨大磁気抵抗効果

巨大熱電効果物質

熱電変換技術は、温度差を直接電圧に変換できる環境にやさしい発電法として、幅広い応用が期待されています。セレン化スズは優れた熱電物質として近年注目を集めていますが、当研究室では、外部圧力を加えることで、室温を含む幅広い温度範囲で熱電性能(電力因子)が2倍以上に増大することを発見しました。また、この性能向上が、1960年代に物理学者リフシッツが提唱した電子のバレー状態のトポロジー変化(リフシッツ転移)に由来していることを世界で初めて明らかにしました。 (参考:クリーンエネルギー 2019年11月号20頁、Physical Review Letters 122巻 226601頁(2019年).

図4 巨大熱源効果物質SnSe (a)合成した単結晶
図4 巨大熱源効果物質SnSe (b)結晶構造
図4 巨大熱源効果物質SnSe (c)熱電性能(電力因子)の圧力依存性

図4 巨大熱源効果物質SnSe (a)合成した単結晶 (b)結晶構造 (c)熱電性能(電力因子)の圧力依存性。上図は、波数空間におけるバレー状態の変化を表す。

超高移動度ディラック電子系物質

エネルギーが高いバンドと低いバンドが波数空間において1点で交わる電子系は、物理学者ディラックが提唱した相対論的量子力学に従うフェルミ粒子と同じエネルギーと運動量の関係を持つ事から、ディラック電子系と呼ばれています(2010年ノーベル物理学賞)。有効質量がゼロになるとともに、バンドのトポロジーに由来したベリー位相効果によって電子の散乱が抑えられるので、高速かつ省エネルギーのデバイスが実現できると期待され、世界中で精力的に研究が行われています。当研究室では、ディラック電子系を形成する伝導層が積み重なった物質(層状ディラック電子系、図5)において、半整数量子ホール効果(図6)を観測する事に成功しています。このホール効果はディラック電子系に特有なものであり、その量子化値は電子系が持つトポロジーを反映しています。
また、極性構造を導入したり、ディラック電子伝導層の間にあるブロック層に磁性スピンを導入する事で、対称性の破れとディラック電子の相関効果について研究しています。(参考:日本物理学会誌 76巻 729頁(2021年).

図5 層状ディラック電子系物質 (a)合成した単結晶(結晶表面の色は極性方向を表す)図5 層状ディラック電子系物質 (b)結晶構造の模式図

図5 層状ディラック電子系物質 (a)合成した単結晶(結晶表面の色は極性方向を表す) (b)結晶構造の模式図

図6 層状ディラック電子系物質BaMnSb2 (a)半整数量子ホール効果 (b)電気伝導率

図6 層状ディラック電子系物質BaMnSb2 (a)半整数量子ホール効果 (b)電気伝導率

強相関構造物性

フラストレーション効果

熱力学第3法則によって、物質が持つエントロピーは絶対零度でゼロになる事が示めされているように、極低温で状態が凍りつく事で物質は自由度を失うと考えられています。しかし、氷(H2O結晶)の様に、水素配置についてエネルギーが縮退した多くの状態があると(フラストレーション状態)、極低温までエントロピーが残る不思議な状態が生じる事が知られています。当研究室では、遷移金属酸化物においてチタン原子の配置がH2O結晶の水素に類似した状態にある事を実験的に明らかにしました(図7)。また、極低温までスピン系の自由度も残っている事を見出しています。 (参考:Physical Review B 98巻 134443頁(2018年).

図7 (a)氷におけるH2Oの配向
図7 (b)遷移金属酸化物MgTi2O4におけるTi原子の配置

図7 (a)氷におけるH2Oの配向 (b)遷移金属酸化物MgTi2O4におけるTi原子の配置

ハイエントロピー効果

含まれる元素の比率が等しいハイエントロピー合金/ミディアムエントロピー合金は、従来の合金よりも優れた力学特性を持つ事から、近年注目されています(図8)。最近、第一原理計算によって、合金中の原子の変位と力学強度が比例関係にある事が指摘されています。原子変位を引き起こす原子間相互作用には、電子や占有軌道が関与する事があります。そこで当研究室では、局所構造を実験的に調べ、原子変位の機構解明を進めています。(参考:日本結晶学会誌 65巻 188頁 (2023年).

図8 CrCoNi合金の原子変位の概念図

図8 CrCoNi合金の原子変位の概念図

PAGETOP